夜の咥戯

 ―お手本編―

 晴れて 博士 ドクター の恋人の席におさまったエンシオディスは、あの初めての夜以来ほぼ毎夜ドクターの私室を訪れている。 一対一 マンツーマン で行われる「夜の講義」のためだ。
 今夜の講義内容は「口の上手な使い方」。
 買い換えたばかりの大きなベッドに座らせられたエンシオディスはまたもやドクターに「初めて」を奪われた。恋人の唇と舌でペニスを愛されるという初めての感覚。行為に慣れてないエンシオディスは、ドクターからもたらされる快感に翻弄され耳も尻尾も声も制御することが出来なかった。
 ドクターはその素直な反応をもとに、すぐにエンシオディスの弱い部分を見つけると念入りに可愛がった。若い獣がいくらももたず、あっという間にドクターの咥内に熱を放ったのも仕方のないことだろう。
「……っ、くっ」
「んむ、っふ、ん……。エンシオ、どう? 覚えた?」
 熱を放った屹立を口から引き抜いて、ドクターが艶やかに笑った。普段、ドクターの唇からは多くの知識とほどほどの冗談、そしてちょっとの意地悪が生み出される。だが今、彼のそこは唾液と精液でいやらしく濡れそぼっていた。昼間の清廉さが嘘のように、赤い舌が上唇をゆっくりと、左から右になぞっていく。足元に跪いたまま、唇についた精液を舐めとるその淫靡なさまを、エンシオディスは息を荒げながら見下ろしていた。
 仕上げとばかりにドクターが先端に口付ける。まだ暴れ足りなさそうなその熱を下着の中にしまってやると立ち上がった。
「しかし、量が多かったな。飲むのも一苦労だよ」
 年下の恋人が初めての刺激にまだ放心していると思ったのだろう。くるりと背を向けてサイドテーブルに置かれたティッシュを引き抜くと首にまで垂れたものをゆっくりと拭っている。隙だらけのその様子にエンシオディスは口の端を上げた。力の入っていない細い手首を掴むと、勢いよくベッドに引き倒す。
 ティッシュ片手に目を瞬いているドクターに覆い被さると、エンシオディスはぱかりと口を開けた。白い牙と赤い舌が現れてドクターが思わず息を飲む。
 掴んでいたドクターの手首にエンシオディスは唇を寄せ舌を這わせた。まるで手首を陰茎に見立てているかのような、いやらしい舌の動き。ざりざりとしたものが肌を滑っていく感覚にドクターが微かに身じろぐ。
「……覚えたかどうか、試してみるか?」
「はは、流石優等生。習ってすぐ実践とは」
 いいよ、やってごらん。
 そう甘く囁かれてエンシオディスはゆっくりとドクターのスラックスに手を伸ばした。



―実践編―

「美味しい?」
 傾けたカップ越しに見えた穏やかな微笑み。投げかけられた問いへの返答代わりに、エンシオディスはこくんと喉を鳴らした。鼻から抜けるラムの香りと、喉をつたうバターのコク。
 少し甘めのそれは初めて口にした時からお気に入りだった。作り方を聞いて以来、自分でも何度か拵えて飲んでいるがドクターに作って貰ったものの方が美味しいと、エンシオディスは密かに思っている。
「キミ、好きなものを飲む時耳がピクピク動くんだよ。知ってた?」
「……いや」
「可愛いから黙ってようかなって思ったけどね。公的な場でその癖を出したらマズいだろう?」
 自分の情報を他人にやすやすと与えるな。
「上に行くための知識」をドクターから学び始めて真っ先に言われたことをエンシオディスは思い出した。好き、嫌いが分かりやすいのは確かに良くない。
「気をつけよう」
 神妙な顔で頷く年下の恋人の顎を、ドクターの指が擽る。
「うん。でも、私の前では隠さなくていいよ」
 可愛いからさ。足されたその言葉にどう反応するのが正解なのか、まだまだ経験の浅いエンシオディスには分からなかった。
 そうして今。
 必死に舌を動かしながら、エンシオディスは自分の耳が震えているのを知覚していた。抑えようと思っても、止められないのはその耳が集音のために動いているからだ。自分が舌を上下左右に動かすたびにあがるドクターのあえかな声。その艶やかな響きをちゃんと拾いたくて動いてしまっているのだ。
「ふ……、んぅ、はぁ……っ、エン、シオ、舌すご……」
 若い獣に「口の上手な使い方」を指南した後、ドクターはベッドに引き倒されあっという間にスラックスを下着と一緒に奪われた。そうしてあらわになったゆるく開いた脚の間で銀色の頭が揺れると、それに合わせて嬌声がこぼれる。
 ドクターのペニスを口に含んだエンシオディスは夢中で舌を動かした。習ったばかりの動きを真似てはいたが、ドクターの好きな所と自分の好きな所は違う。舌が触れると腰がびくんと跳ねる場所。声が一段高く上がる場所。その部分を念入りにいじり倒す。
 部屋には甘い吐息とドクターの足裏がシーツを擦る音が響いている。ドクターは下腹部で揺れる銀色に手を添えて、宥めるように、あるいは促すように、もしくは褒めるように、ゆっくりと頭を撫でていた。まだまだ稚拙な動きであれど情熱的に舌を絡めてくる年下の恋人が可愛くてたまらない、といった様子だ。
 時折ぶん、とエンシオディスの尾が揺れる。恋人の陰茎を口で愛す、という初めての体験に興奮しているのだろう。毛は逆立ち僅かに膨らんでいた。
「はぁ、っ、じょうずだね、流石だ、初めからこんな、あうっ!」
 鋭い叫びがドクターの口から迸った。興奮で尖ったエンシオディスの牙がつつーと裏筋にあてられたのだ。傷つけられるのではという恐ろしさと、弱いところを的確に責められた気持ちよさ。しなるドクターの背にエンシオディスが手を添える。浮いた腰をそのまま抱えるとより深く、ドクターのペニスを口内に咥え込む。
「アっ、う……」
 熱くてザラザラした舌にまとわりつかれて、ドクターがたまらないといったふうにかぶりをふった。いやらしい水音と段々大きくなる衣擦れの音。絶頂が近付き余裕をなくしたドクターの手が、美しい銀糸を乱していく。
「あっ、うっ、うう、くぅ……っ!」
 激しく、じゅっ、と吸われたその瞬間。腰をガクガクと震わせてドクターは精を放った。息を荒げながら下腹部の銀色に視線を落とすと、若い獣の耳がピクピクと揺れている。その動きが示すことを解したドクターが小さく息をついた。
「美味しくないんだから飲まなくていいのに」
 そう言いながら耳に手をやると、刺激に驚いたのかピクンと一際大きく動いた。いつもより内耳のピンク色が濃く見える。
 エンシオディスのものと比べるとドクターの精液は量が少ない。だが慣れていないエンシオディスは粘つくそれを時間をかけて飲み下していた。まだ、伸び代の残る喉仏を何回か上下させると、エンシオディスはようやく口を離した。
「お前も、飲んだだろう」
「それはまぁ……」
「手本通りにやったのに減点か?」
 じと、と薄目で睨まれてドクターはその仕草に思わずふきだした。
「まさか!勿論、 Distinction 合格 をあげるよ!」

メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで

close
横書き 縦書き