Water sound
人工海域でも海の音はするんだな…
寄せては返すどこか懐かしさを感じる波の音。それを遠くに聞きながら、ドクターはきらきら輝く水面を足で蹴っていた。
夜の海は危ないから一人で近付くな。過保護な『夫』からそう言われているので、今ドクターが蹴っているのは海の
水面に映る星空をつま先で崩しながら、ドクターは緩やかに流れる時間と景色を楽しんだ。この島は朝焼けも夕焼けも美しい。だが、ドクターのお気に入りは夜に見られる満天の星空とそこに浮かぶ月だった。庭の光源が最低限のフットライトしかないのは、この夜空を心置きなく眺めるためだろう。
銀の星と銀の月。
ドクターの好きな色で空が埋まっている。それらを視界に映してぼうっとしていると背後で、窓の開く音がした。
「あまり長い時間浸かると体を冷やすぞ」
優しいテノールが夜の空気を震わせる。視界に入ってきたもう一つの銀色にドクターが答えた。
「つま先しか濡らしてないよ」
「足から冷やすなど余計悪い。お前は体が強くないのだから」
君は私の母親か? そう言ってやりたかったが、シルバーアッシュの自分を見る瞳が想像していた柔らかさではなく、仄かな情欲に染まっていたのでドクターはその言葉を飲み込んだ。二人きりの島で、その熱い視線を注がれるとすぐに腰が疼いてしまう。
その熱を胡麻化したくてドクターは腰かけていたプールサイドから勢いをつけて目の前の水に飛び込んだ。否、正確にはずり落ちた、が近いかもしれない。ばしゃん、という音と共にあがった飛沫がシルバーアッシュの顔を濡らした。
「……」
濡れて額に張り付いた銀糸をかきあげながら、アイスグレーの瞳が何か言いたげに細められる。彼のこんな姿を見られるのは自分だけだ。そう思うと、水に沈めて冷え始めているはずの体に再び熱が灯った。
シルバーアッシュの背後で左右に揺らめく尻尾。確信は持てないが、おそらく、何かを企んでいるときの動き。ゆらゆらと動くそれに視線を奪われていると、次の瞬間、シルバーアッシュがプールサイドから飛び込んだ。勿論、浅いプールに合わせて足から、だが。
先程ドクターがあげたものよりも大きな水音が静かな庭に響いた。
「わっぷ……、うぇ、」
「これでおあいこだな」
「どこがだよ。君、自分の大きさ分かって……んむっ」
頤を掴まれて、唇を塞がれる。ドクターの反論はシルバーアッシュが全て飲み込んだ。ぐいっと腰を引き寄せられて、口付けが深くなる。さっきまでとは違う水音が耳の中でいやらしく反響した。
もう、完全に体は次の刺激を求めて反応をし始めている。咥内からざらついた舌が出ていって、ドクターは熱い息を漏らした。するりとシルバーアッシュの手が、水で張り付いたドクターのインナーの中に入り込む。背中を撫でられて腰が震えた。この後の行為を予感させるような、淫らな撫で方にドクターが腕の中で身じろぐ。
「ん……体冷やしちゃだめなんだろ……」
「冷やさなければいい」
ぱしゃん、と小さい飛沫が上がった。
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