おとなとこども
「ねえ、センセー。前から思ってた事言ってもいい?」
「いいよ」
「センセーって大人の割に堪え性がないよね」
麗らかな午後の執務室でバリスタから放たれた矢のごとく飛んできた言葉。うっ、とわざとらしく胸を押さえるが、目の前の少年は冷めた目でこちらを眺めるだけだった。
「センセーの采配はすごいって思ってるよ。でも時々、あ、そこもっと我慢すればいいのにーみたいなとこがあるんだよね」
見ていた戦闘ログを止めると、アレーンはゆっくり机に近づいてきた。薄いライムグリーンの瞳が良くない輝きかたをしている。これはまずい、と思わず立ち上がりかけたドクターの肩にぽんと手を置くと、有無を言わせない力で椅子に座り直させる。少年とはいっても戦闘オペレーターだ。力比べは得策ではないし、たとえ抵抗してももっとひどい状況になるだけだ。ドクターは諦めて眼前の少年を見上げた。
「だからさ。我慢強くなる練習、しようよセンセー?」
甘く囁かれる言葉に抗う方法を、まだ今のドクターは見つけられていなかった。
「ちょ、アレーン。駄目だ、まだこんな時間だし誰か来るかもしれない」
執務室の続きの間、ドクターの寝室。ベッドの上で自分よりも小さなオペレーターに押し倒され、ドクターは言葉で抵抗を試みた。
「僕が何も対策をしないと思ってるの? ちゃーんと秘書権限で人払い、済ませてあるよ」
「で、でもっ」
「うるさいなぁ、大丈夫だよ。それに、すぐ終わるから」
覆いを奪われ露になったドクターの頬を華奢な指が撫でる。そのまま滑らせて薄い唇にたどり着くと、アレーンはかさついた感触に気付いて眉を顰めた。
「センセー、リップクリームつけてねって言ったのに。サボってるでしょ」
「いやぁ、はは……」
「はい、お仕置き追加ー」
「えっ」
あっという間に下着ごとボトムを足首まで引き下ろされる。ゆるく頭をもたげかけているドクターのそれを見て、アレーンはくすりと笑った。
「センセーったら、まだ何もしてないのに。もしかしてお仕置きの言葉だけで期待した?」
「ちが、う、と思いたい……」
「ふ、その返事なんか可愛いね。ご褒美に玩具は小さいやつにしてあげる」
「うう……」
何かを挿れられることは確定らしいので、もう余計なことは言うまい、とドクターは唇を引き結んだ。このモードになったアレーンはドクターの言うことを聞かない。ベッドの上での指揮官は自分だとでもいうように傍若無人に振る舞う。
「はい、自分で足抱えて」
だからこんな要望にも黙って答えなければならない。年下の、男ともまだ呼べない少年にいいようにされて大人としての矜持はズタボロだ。
「流石にまだ縦には割れてないか……早く見たいな」
固く閉じてはいるが期待にひくひくと震えるそこをひとしきり目で楽しむと、アレーンは親指で縁をゆっくりとなぞった。
「っ……」
「早く形を変えたいから、いっぱいここ、使おうねセンセー?」
「ふ、ぅ……」
どう返すのが正解か分からず、ドクターは漏れ出る吐息のみで濁した。ローションの蓋を開ける音が響いたので、どうやら今回の選択は当たりだったらしい。冷たいとろりとした感触を尻の狭間に感じて体を震わせる。塗り込むように指が動いたあと、つぷんと白魚のような指が蕾の中へ消えた。
「ふふ、外はまだ変わってないけど、中は柔らかいや」
柔らかい締め付けを堪能するかのようにぐるりと中で指をまわす。くい、と指をまげていい所を刺激しながら逐一反応を見せるドクターの顔を見下ろすと、予想通りすっかり出来上がった赤い顔が無防備に晒されていた。
「まだ指一本なのにそんな顔しちゃってるんだ。メディカルチェックで直腸検査があったらどうするの?」
「ぅ……」
甘く責めるような声に耐えられずドクターは足を抱えるのをやめて両腕を顔の前で交差させた。
「隠してもいいよ。むしろ最後までそう出来たらご褒美あげる」
ぐりっと強く中の膨らみを押されて強い刺激に体が揺れる。
「はっ、ぅ、ふぁ……アレー、ン」
「はいはい、ちゃんと触ってあげるってば」
すっかりたちあがった熱に空いている左手を添える。カリカリと先端を苛めるとあっという間に先走りが溢れてきて、アレーンはにっこりと微笑んだ。ぐちゅぐちゅと下半身から出る水音の発生源はどちらからなのかもう特定出来ない。三本目の指を嬉しそうにきゅうきゅうと締め付けるそこは、次の刺激を欲しているようだ。バラバラに動かした指で満遍なく内壁を擦ったあと一度引き抜く。
「ぁ……」
寂しそうな声を漏らすドクターを宥めるように、はくはくと開閉する下の口にふぅと息を吹きかける。
「すぐにいれてあげる」
サイドテーブルから取り出したつるりとしたピンク色の小さな機械。ローションを絡ませると期待に震える穴に添える。無機質な感触にドクターは腕の下でぎゅっと目を瞑った。
「やらしいんだ、センセー。僕は添えてるだけなのに。勝手に飲み込んじゃうよ、ほら」
「っ、ぁ!」
「ん……入っちゃったね。奥よりも手前がいいかな。この辺で動かしてあげる」
手元のスイッチを入れると振動音と共にドクターの背中が反り返った。
「ぁ゛っ、ん、ぁっ、アッ」
「気持ちいい? センセー。前立腺擦られるの好きだもんね」
「ぅ、ん、んっ、きもち、い」
「今日いつもより素直じゃない? 夜じゃないからかな。まだ来客を気にしてるの? 早く終わらせたい?」
「あ゛あ゛、っ、や、め、ちがっ」
矢継ぎ早に問いかけながら玩具の設定を一番強いレベルにすると、ドクターの足が空くうを蹴った。交差していた腕もあっさり解いてシーツを泳ぐ。先走りで濡れた熱はいまや腹につくほど勃ちあがっていた。二度ほど下から上へなで上げると、ドクターの腰が浮いた。
「ね、イきたい? センセー。もう限界?」
ドクターがこくこくと頷いたのを確認すると、アレーンはポケットから取り出したリボンで根元をキツく締め上げた。
「はい、OK。ようやく我慢の練習出来るね」
「ぇ、あ、アレー、ン……?」
「あぁ、だめだめ。触らないで。僕がいいって言うまで我慢してね」
「ぃやだ、っ、外してくれ、」
懇願を綺麗に無視してサンクタの名に恥じぬ微笑みを浮かべ、ベッドから降りる少年にドクターは目を見開いた。
「さてと、じゃあ僕は『お昼寝中』のセンセーの代わりに基地の巡回に行ってくるから。今日は確か訓練室で誰か訓練してたよね。終わってるか見てくるよ」
「ま、って、無理、」
「あぁ、あと、素材加工の発注もしてたっけ。それも受け取ってくるね」
ふるふる、と首を振るドクターの頬に掠めるようなキスを落とす。
「セーンセ、練習がんばろうね」
悪魔のような天使の声とドアの閉まる音が、寝室に響いた。
「なーんてことも昔あったよね。このリボンが似てたから思い出しちゃった」
「っふ、昔ってほどでもない、だろ、ぁっ」
「センセーにとってはたかだか数年かもだけど、僕にとっては長かったんだよ?」
吐息交じりにそう言いながらドクターに絡みつく指は前より少し長くなって節ばっている。
「センセーが頑なに僕が大人になるまでは本番ダメって言うからさ」
とろとろと溢れる先走りを指ですくってすっかりほころんだそこへ挿し入れる。性器として変化したそこはきゅうきゅうと締め付けるだけでなく、異物の侵入を喜ぶようにまとわりついた。
「僕の成長を待っている間にここもすっかり育ったね、センセー」
「いっ、ぁ……」
「すっごいサイズのオモチャも入るようになっちゃったし……いつも僕ので満足できてる? ちょっと心配」
欠片も心配していない声音で言いながら、ぼこぼことした蛍光色のディルドを開閉を繰り返すそこにあてがう。
「う、いやだ、アレーン。それは」
「いやなの? 好きでしょ、これ」
ふる、とドクターの顔が左右に揺れた。燻る快感に震える手でアレーンの服を掴むが、そんなドクターの訴えるような瞳をいなしてアレーンは耳に囁いた。
「ねぇ僕、我慢強い大人になれたでしょ。センセーはどう?」
ぐっ、と先端を押しこめるように力を入れるとドクターはひっ、と小さく叫んだ。
「っ、アレー、ン、アレーンのがいいっ……」
「ふふ、相変わらず堪え性がないなぁ、センセーは」
ぽい、とグロテスクなそれを後ろに投げる。ドクターの薄い腹を撫であげながらアレーンは微笑んだ。ドクターの性器を縛っていたリボンをしゅるりとほどくと指に絡ませる。
「でも、素直な大人は好きだよ」
ごくりとドクターの喉が鳴った。
「ぁっ、うぁ……っ、ヒッ、」
はしたない水音が寝室に響く。泡だった結合部から律動のたびに飛び散るものがシーツを濡らしていくのをアレーンは上機嫌で眺めた。やわやわと自分を甘やかすように轟く内壁は温かく、自分の下で喘ぐ上司そのものだった。自分の前では常にいい大人であろうとするこの年上の男が、アレーンには可愛くて仕方ない。少々歪んだ愛情をこめてかき混ぜるように腰を動かすと、ドクターは腹を痙攣させながら達した。
「もうイっちゃったの?」
「ふぁ、……ごめ、だって……」
「だって何?」
「んぁっ、やめ、」
絶頂の余韻を静かにやり過ごそうとしていたドクターに、アレーンは容赦ない一突きをお見舞いした。アレーンの首に両腕を巻き付かせドクターは衝撃に耐えながら、形のいい耳に向かって答えた。
「君の、が、熱くて、かたくて、気持ちよすぎるんだよ、う、あッ!」
言葉の意味を認識した瞬間、ぶわっと体が熱くなった気がしてアレーンは乱暴にドクターの足を抱え直した。
「っ、そういうの、ズルいと思わない?」
「ひぁっ、うっ、ぐ、んんんっ!」
煽られて暴走する熱を叩き込む。乱暴な律動なのに、まるで全てを許すように内壁は奥へ奥へとアレーンの熱を誘った。アレーンによってすっかり立派な性器になったそこは、早く出してしまえ楽になってしまえと熱に絡みついてはしぼり上げる。
奪う為のセックスをしているはずなのに、いつも最後には与えられている感覚に陥る。体は大きくなっても、どうやったって埋まらない差。それを知ってて自分に全てを明け渡しているのだ、目の前の男は。
「ほんっと、ズルい大人だよね、センセーは」
不貞腐れたような声を出すアレーンを宥めるように、ドクターはゆっくりと前より少し広くなった背中を撫でた。
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