crash out

 ロドスで仕事をこなし始めてからドクターはあることに気付いた。それはどうやら自分が他の人よりも「睡魔に強いらしい」ということだ。自他共に認めるワーカーホリックであるドクターは、仕事に熱中し気付けば朝、ということが少なくない。勿論、人並みに眠気は来る。だが、不思議と耐えられてしまうのだ。それ故に「あともう少し」が積み重なって結果的に三徹、四徹となっていく。
 常に身に着けているフェイスシールドのせいで寝不足による顔色の悪さも、目の下のひどいくまも隠せてしまうのでドクターの秘書を務めるものたちは暗黙の了解として一定間隔でそれをひっぺがすことにしていた。そんな強硬策をとらねばならないほど、ドクターと睡眠は遠いところに位置しているのだ。仕事を無理矢理にとりあげられない限り、ドクターが自分からベッドに潜り込むことはない。ゆえに眠くて眠くて仕方がない、ということも経験がなかった。
 後方支援部のエンジニアたちの会話でたまに聞く「寝落ち」という用語もドクターの耳には聞きなれないものだった。寝落ちってどういう感覚なんだ? というドクターの質問に彼らは「睡魔に耐えられず気絶するように寝入ること」と答えドクターの興味を誘った。恐らく自分が眠気に負けて寝落ちることなんて、きっとテラがひっくり返ってもないだろう。ドクターはそう思っていた。
 だがしかし、今、なんとその「寝落ち」の危機に瀕しているのだ。それも久々に会った恋人の目の前で。
 ドクターの恋人であるシルバーアッシュはロドスに籍は置いているものの、多忙のため常駐はしていない。多忙なもの同士なかなか会えないことが多く、面と向かって会えない期間が数ヶ月、ということもざらにある。そのため、久々の逢瀬になると毎度かなり盛り上がってしまうのだが、今、恋人と相対したドクターはいつもと違う熱が自分の体を包んでいるのを感じていた。

『とてつもない眠気が来るとさ、体がなんかあったかくなるよな』

 エンジニアの彼らがそんなことを言っていたなと思い出す。なるほど、このことか。ドクターは初めての強烈な睡魔に襲われながら納得した。ドクターがそんな状態に陥っているとは露知らず、シルバーアッシュは執務室のソファでドクターを抱えながらぐるぐると甘い唸り声をたてていた。
 深夜、二人だけのパスワードを用いて執務室に入室したこの大きなフェリーンは、マントを脱ぎ落とす間も惜しんでドクターを椅子の上から引っ張り上げた。そして恋人を腕の中におさめたまま一番近場のソファに座り込み今まさに久しぶりの恋人の匂いを堪能している最中である。普段、戦場での彼を見慣れたものがこの光景を目にしたら驚くだろう。体全てを使ってドクターを囲い込み、喉を鳴らすシルバーアッシュを本来ならよしよしと撫で、労をねぎらうのがいつものルーティーンだ。だがドクターは既に腕を持ち上げることすら出来なくなっていた。
 ただ、ひたすらに、眠いのだ。
 自分の体が性的な興奮ではなく睡魔によって熱くなっている上、この大きな銀色の毛玉がぴったりと密着しているので更に体温は上がっていく。とろとろと瞼も重くなり、視界に恋人をおさめ続けるのが難しくなってきたころ、シルバーアッシュの耳がぴくぴくと震えた。

(ああ、領主様が、触れ合いを所望されている)

 いつものルーティンが行われないことに疑問を持ち始めたのだろう。べろり、と、乞うように首筋を舐められるが今のドクターにはそんな愛撫も刺激にならなかった。
 暑い、眠い、体が重い。
 脳内はその三つの単語で占められている。耳元で聞こえていたはずの唸り声が、だんだんと遠のきはじめ、いよいよまずいなと思い始めた。シルバーアッシュの前で気をやったことは何度もある。だがそれはいつも激しいセックスの後に発生するイベントで、こんなまだハグしかしてない状態で倒れ込んだら彼はきっととても驚くだろう。ドクターは糊付けされたような唇を必死に動かして、目の前の恋人に話しかけた。
「えん、しお……」
 ん? といつもの低い返しが眠気で赤くなった耳朶に届く。
「ごめ……今日、本当に疲れてて。今度、上に乗ってあげるから、それで……」
 ゆるして、という言葉は口のなかでうまく紡がれずに消えていった。かくん、と首が傾きシルバーアッシュの胸元にずしっとした重みが乗る。それはドクターが初めて睡魔に敗北した瞬間だった。
 すうすう、と穏やかな寝息がこだまする執務室内で、シルバーアッシュはまるで彫像のように固まっていた。先程まで機嫌よく揺れていた尻尾も銀毛の耳もまるで剥製のように動かない。それは勿論、今しがた自分の腕の中で電源が切れたかのように眠りに落ちてしまった恋人が原因である。
 久方振りの触れ合いに逸る心を押さえつけながらも、まずは恋人の匂いを堪能しようと、手順を踏んでいた矢先の出来事。さしものシルバーアッシュも人の子、もとい恋するただの男である。これからという時に恋人が寝てしまい、固まってしまうのも無理ないことだった。更にいうなれば、彼の硬直の原因はもう一つある。寝入る前のドクターの言葉だ。

『今度、上にのってあげる』

 そのフレーズがシルバーアッシュの思考を止めていた。今まで数々の交わり方をして来て、勿論ドクターの言う「上に乗る」という体勢も二人は経験済である。だがいつもそれを促すのはシルバーアッシュからで、それも大体ドクターが前後不覚になっているときに、どさくさに紛れて体位を変える。だからドクターから積極的に彼に跨ること、というのは今までなかったのだ。
 そんな彼がまさか自分から提案するとは。困惑と失望と期待でぐちゃぐちゃの感情をシルバーアッシュは抱えながら、ようやくふうと一つ息を吐いた。自分に全体重を預けるドクターをしっかりと抱え直すと、立ち上がる。そのまま真っすぐ続きのドクターの寝室へ向かうと綺麗に整えられたシーツの上にそっと細い体を寝かせた。この寝台の様子からして、恋人が幾日も寝ていないことは明らかだった。常人なら確かに耐えられないほどの睡魔だろう。だが、自分の恋人が今まで三大欲求の睡眠欲を欲した記憶はなかった。
 とうとう限界を迎えたのか、とほんの少し呆れを滲ませながら無理を通すことの多い青白い目元を撫でる。寝息をたてる口元に口付けたかったが、自分の体はいまだ恋人を求めて燻っている。過度な触れ合いは危険と判断したシルバーアッシュはドクターの唇をそっと指で撫でるだけに留めた。寝かせてやろう、と離れるもふと見たら自分の尾がしっかりと恋人の脚に巻き付いており思わず苦笑する。それほど飢えているのだ。だが、無理をさせるのは本意ではない。やや強引に己の尻尾を引きはがすとシルバーアッシュはベッドの上で寝息を立てるドクターの唇をもう一度撫でた。
「起きたら存分に対価を支払ってもらうぞ」
 自分の体の上で淫靡にはねる恋人の姿を想像しながら、シルバーアッシュはいつもの低い艶やかな声でそう呟いたのだった。




 深くて短い眠りを一人で堪能したドクターは、スッキリとした頭で目覚めた。脳みそはクリアだが寝入る前の記憶は正直朧気で、暫しベッドの上で放心する。

(ええと……確か昨日はシルバーアッシュが久々にこっちに来てて……あれ? 私、昨日セックスしたっけ?)

 ちらりと自分の装いに視線を落とす。衣服は多少シワが出来ているくらいで特に乱れはなく、そしてヘッドボードの時計を見る限り、今はまだ深夜と呼べる時間だった。ベッドから下り立つ時も特に腰や背中に違和感はなく、それらの事実はドクターが昨夜シルバーアッシュと何もしていないことを示していた。

(何もせずに寝たのは初めてじゃないか?)

 いつもまるで飢えを満たすように互いを求めあい、クタクタになるまで体力を消費して気付けば朝ということが多い。そういえば昨日はシルバーアッシュと会ってすぐにひどい眠気に襲われたんだっけとドクターはガシガシと頭を掻きながら、寝室から出た。目印となる銀毛の尾を探す。もしや帰ってしまったか、と不安になったが執務室の黒いソファの傍でそれは見つかった。マントを脱ぎ、比較的ラフな格好でソファに横たわっていた恋人にそっと近寄る。執務室のソファは複数人でのミーティングに対応出来るよう、そこそこ大きなものだがこの大型のフェリーンにはそれでも足りないらしい。長い足を持て余しながら横たわる姿にドクターの頬が自然と緩んだ。
 形のいい唇からは微かな寝息が聞こえる。疲れきっているのは彼も同じだろうに、無理をしてロドスに寄ってもらった上、大して触れ合うことも無く、更にはこんな狭いソファで寝かせてしまった。罪悪感からドクターがシルバーアッシュの目元をそうっと撫でる。少し疲れの色が見えるそこを数度撫でると、そのまま白皙の頬にも唇で触れてやる。滑らかな肌を一瞬だけ堪能して去ろうとすると、尻尾がドクターの腰にしゅるりと巻きついた。ぐん、と引っ張られ胸元に倒れ込む。
「唇にはしてくれないのか?」
「エンシオ……寝たフリが得意だな」
「賢い戦術指揮官様は全て承知の上でキスを施してくれたのだと思っていたが」
 すり、と形のいい鼻先が首筋に埋まってそこからじわりと熱が産まれる。
「寝る前の記憶があやふやなんだが、なんで君こんなところで寝てるんだ? 仮眠するにしても私の隣で寝れば良かったのに」
「酷なことを言う」
 えっ? と見上げるとそのまま両頬に手が添えられた。べろりと唇を舐められてドクターの背が震える。
「これから、という時に寝入ったのはお前だ。珍しく眠気を口にしていたから、よっぽどなのだろうと静かに寝かせてやったのだぞ」
「ア、アリガトウゴザイマス」
「待てが出来た恋人に褒美を与えてくれるだろう?」
 腰に巻きついていた尾がするりと離れ、ドクターの背中をつつーと撫でた。普段なら何とかして誤魔化す誘いの言葉だが、多少の罪悪感に襲われてる今、ドクターはほんの少し迷った後、こくんと素直に頷いた。



 寝室に戻ると、シルバーアッシュは真っ先にベッドの上で横になり尾を楽しそうに揺らした。
「それで、領主様は何をお望みなんだ?」
 ドクターが透け感のある白衣を男らしく脱ぎ捨てると、シルバーアッシュがぴくりと眉を動かした。
「覚えていないのか?」
「何を?」
「お前が、寝入る前に言ったことだ」
 なんとなく嫌な予感がする。ドクターは寝落ちする前の記憶をさらったが、やはり昨夜はあまりにもひどい眠気のせいで全てがぼんやりとしていた。
「私、何か言った?」
 ぶん、と尻尾が左右に揺れる。これはシルバーアッシュがちょっとむっとしたときの動きだった。
「『今日は本当に疲れている。今度、上に乗ってあげるから許してくれ』と」
 戸棚からローションのボトルを取り出していたドクターは予想外の言葉にゲホゲホと咳き込んだ。寝台を振り返るとシルバーアッシュの自信満々な視線とぶつかる。
「そんなこと、私が言うと思う?」
「ほう? では私がお前を謀っていると?」
「いくらなんでも直接的すぎるだろ。ハグとかキスとか耳掃除とか、あとは……ホラ、膝枕とか! それくらいなら分かるけど」
 性技が巧みではない自分が、そんなハイレベルな行為を詫びとして恋人に提案するはずがない。ドクターはそう思っていた。故に疑ったのだ。だが、シルバーアッシュはその反論にぴくぴくと数度耳を動かすと、ドクターに向かって何かを放ほうった。
「わっ、とと……なんだこれ」
 なんとかキャッチに成功した小型の機器。再生と停止ボタンがついているのでどうやら音に関係するものらしい。
「再生してみろ」
 話の流れ的に正直押したくなかったが、ドクターは視界の奥でゆらゆらと揺れる尻尾の圧に負けて再生ボタンを押した。まず、聞こえてきたのは衣擦れの音。そして甘く響く恋人の唸り声。唇や舌が戯れている水音も聞こえてきて、これが昨夜の触れ合い時の音声データであることが分かった。何で録音してるんだ、という疑問はひとまず置いておくしかない。こんな風に自分たちの行為の音を聞くことがそもそも初めてだったので、ドクターの耳がじわっと赤くなった。暫し衣擦れの音が続いていたが、ぐるる、と何かをねだるときの甘く掠れた唸り声が聞こえたその少し後、会話が始まった。

『えん、しお……』
『ん?』
『ごめ……今日、本当に疲れてて。今度、上に乗ってあげるから、それで……』

 むにゃむにゃとその後は言葉になっていなかった。だが、大事なのはその前だ。ドクターはうわぁ、と顔を手で覆った。確かに、自分は言っていた。上に乗ってあげる、と。
「盟友」
「はい……」
「乗ってくれるな?」
 音声データの再生がぷつんという音を立てて止まった。


「……重くない?」
「全く」
 ドクターは今、ベッドの上でシルバーアッシュの腰を跨ぐようにして言葉通り乗っかっていた。下着を脱ぎ落としあらわになった尻の狭間にごりっと感じるかたいもの。それだけで背筋を甘い電流が駆け上っていく。お預けを食らっていたのはドクターも同じだ。だが、どうにも素直に求めることが出来ない。いつもなら再会の勢いに任せて求めることが出来るのだが、自分が寝落ちし微妙なラグが発生したせいでどうにも気恥ずかしさが勝ってしまっていた。
 そのまま脱がせてくれ、という要望を叶えてやるために恋人の白いシャツに手をかけ、ぷちんぷちんと一つずつ、ボタンを外していく。ミルク色の肌があらわになるにつれ、ドクターの鼓動も少しずつ早くなっていった。手の位置が下がっていくたび、自分の中の恥ずかしさも少しずつほどけていく。
「下もお前の手で」
「ん……」
 もうこうなったら全部叶えてやる。そう覚悟を決めたドクターはずり……と一度後退して、シルバーアッシュのスラックスを脱がしにかかった。ジジ……とチャックを下ろし、ホックを外す。近くで見ると縫製の丁寧さが分かり、流石普段着でもいい服を着ているな、などと思いながら下着ごと脱がすと、ぶるんと飛び出した肉に頬をぺちんと打たれた。
「ふぁ……すご……もうこんな?」
「待てが長かったからな」
 それを言われるとどうにも反論が出来ない。ドクターは天を向いてビキビキと震える先端を掌で覆った。
「ごめん、今から楽にしてあげるから」
 よしよし、と言いながら撫でると、逞しい腰がビクッビクッと揺れた。じわりと先走りが滲み出た気がして、素直な反応に思わず笑みが漏れる。戦場であれだけ強さを誇る男が、自分の体を求めて震えている。ドクターの体に熱をもたらすにはその事実だけで充分だった。そのまま手を滑らせ数度、扱きあげるともうシルバーアッシュの方は準備が万端だった。だが、ドクターはまだ出来ていない。先走りを纏ったドクターの手の上にシルバーアッシュがローションを垂らした。混ざりあったそれを指に纏わせてそっと後ろに手を回す。目を瞑っても感じる強烈な視線に犯されながら、ドクターは必死に自分の後孔をほぐした。
     細い指が三本埋まる頃、ドクターの陰茎もすっかり勃ちあがりぷるぷると震え始めた。正直自分の指三本ではギリギリのラインだが、もう我慢が出来なかった。そそりたつモノがしっかりと自分の肉孔を貫くように、位置を調整する。期待と不安で脚ががくがくと震えていた。そんな細い脚をシルバーアッシュがするりと撫で上げる。
「自分で下ろせるか?」
 こくこくとドクターが頷くと手は離れていった。ぷちゅ、とゆるんだ肉孔に切っ先が当たる。はくはくと開閉を繰り返しているそこに腰を揺らして擦り付けると、視界の端で尾がゆらりと持ち上がった。
「ん゛っ、うぅっ……!」
 熱い。苦しい。気持ちいい。
 ドクターの脳内は今その三つの単語で占められていた。熱杭に自分から腰を下ろして貫いてもらったのに、恐ろしいほどの刺激にともすれば腰が逃げ出してしまいそうだ。シルバーアッシュはぴくりとも動かず、ただその瞳はドクターを見つめていた。ぼやけた視界にうつった顔は満足げに笑んでいる。
「好きに動いてみろ」
「は……う……」
 圧迫感にふうふうと息をつきながら、ゆっくりと腰を動かす。少し動く度に凄まじい快楽が伝播していった。上に乗る、と言うのは簡単だが実行するのがこれほど難しいことだったとは。
「んっ……う゛っ、んんっ」
 浅い部分に当たるように腰を細かく動かす。うまく当たって感じ入るたびに腰が戦慄き、薄い腹が痙攣した。その刺激でシルバーアッシュも口から熱い吐息を漏らす。
「奥に……ふ、当てなくていいのか?」
「アっ、んん、んうっ、い、ま、だめ……」
「なぜだ?」
 ぐっと腰を掴まれてドクターが慌てる。
「だ、め、だって、アッ! ん、これだと、ふか、すぎる」
「今まで何度もこの体勢で奥を貫いてやったが」
 ぶんぶんとドクターが首を左右に振る。シルバーアッシュが言っているのはドクターが前後不覚になっているときの話だ。だが今はまだそこまで意識を飛ばしていない。それゆえにドクターは怯えていた。だから浅い、自分のいいところのみを狙って腰を動かす。気持ちいい。確かに気持ちいいのだが、自身が浅瀬での戯れで満足できる体でないことはドクターも分かっていた。
 怯えながらも段々と大胆にグラインドし始める恋人の動きにシルバーアッシュの口元が弧を描く。尾もゆらゆらとシーツの波を泳いでいた。
「……っは、う、ンッ♡ んうっ♡♡」
 ぱんっぱんっと肉がぶつかる音。自分が大きく動けば動くほど得られる快感も大きくなる。だが、どうやら自分の動きだけでは一番欲しいところに届かないということに気付いた。下からも、突き上げて貰わなければ。
 ドクターは視界の端で揺れていた銀毛の尾を掴んだ。ふわふわのそれを口元までもっていくと、口に咥える。その間も腰は上下に揺れている。しっかりと尻尾を抱えながら、ドクターは必死に腰を動かしていた。
 その様子をシルバーアッシュは楽し気に眺めている。自分の尾をしゃぶりながら、淫靡に腰を動かす恋人の姿に獰猛な唸りが止まらなかった。褒美はきちんと受け取った。むしろ恥ずかしがりの恋人にしては充分すぎるほどだ。そろそろ、こちらもその誠意に答えてやろうとシルバーアッシュは目の前で揺れる細い腰を両手で掴んだ。
「ん゛っ♡♡」
 ずん、と下から突き上げられてドクターが尻尾を離す。たった一突きで激しい快感がびりびりと体中をつたっていった。
「あ゛っ♡ うぐっ♡♡ ふかっ、ふかい♡♡」
「ふ……お前がいつもより、動いているから、だ」
「ん゛っ♡♡ んんっ、うそ、だ……っ♡」
「嘘なものか、そら。もう奥にはまっているぞ」
 ぱちゅんぱちゅんと肉がぶつかる音と淫水の跳ねる音、そして体内で鳴るぐぷん、ぐぷんという音。それら全てがシルバーアッシュの言っていることが真実だと語っていた。自分のいやらしさを理解したとたん、きゅうと腹が甘く戦慄く。そのままきゅっきゅっと中の肉をしめ上げるとシルバーアッシュが耐えるように眉を寄せた。
「……っ」
「ぁあっ♡ はっ♡ むりっ、これっ♡ 腰、とまらな♡♡」
 腰を激しく動かしながら何度も甘イキを繰り返すドクターのナカ。一度は耐えたものの、目の前で一心不乱に快楽を貪る恋人の姿と相まってシルバーアッシュも己の限界が見えていた。勢いよく体を起こし、上で跳ねていたドクターを腕の中におさめる。一瞬のうちに座位へと変わった体勢に、細い両脚がロックするようにシルバーアッシュの逞しい腰に絡みついた。ぎゅううとぴったり密着し隅々まで互いを感じ合う。
「———————っ♡♡」
 何度目かの律動の後、ぶしゃっと最奥に叩きつけられた熱にドクターの体がびくんと揺れる。それをトリガーに解放された自分の欲と向き合いながら、ドクターは遠くなる意識の中で唇を気だるげに動かした。
「も……上に、なんて、乗らない……」
 そう言ってかくんと頭を下げ、ドクターは落ちてしまった。シルバーアッシュはしばし絶頂の余韻に浸った後、静かにくくっと笑った。尾はゆらゆらと楽しそうに動いている。意識を飛ばしたドクターの耳朶に唇を寄せると、いつもよりも低い声でそっと囁いた。
「悪いな。今回は録音していないぞ」

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